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2010年08月29日

広告チラシや雑誌は戦争にどれだけ奉仕したかー『神国日本のトンデモ決戦生活』(早川タダノリ/合同出版)

アジア・太平洋戦争に向けて、あらゆるメディア表現は「国家総動員」「翼賛」体制への隷従を強いられ、潔しとしないものは沈黙するか投獄されるしかなかった。
そして「銃後」は「思想戦」の戦場となる。

これらについて若い人たちに参考になるようなものは少しずつ触れていきたいと考えているのだが、今月出た『神国日本のトンデモ決戦生活ー広告チラシや雑誌は戦争にどれだけ奉仕したか』(早川タダノリ/合同出版)がとてもおもしろく、きっかけになると思うので先に紹介する。

この本がまず興味を引くのは、このテーマに関する文献ががほとんどすべてメディア史やデザイン史、日本近現代史の専門研究者によるものであるのに対し、奥付けを見ると1974(昭和49)年生まれ、三十代のフリー編集者・DTPオペレーターであること。
氏の「虚構の皇国」というサイトを見ると、ブラジル生まれ東京在住の日系4世。曽祖父は広島から開拓移民として移住し、日本敗戦直後は「勝ち組」に属して暴れ回ったという。
「現在Adbe奴隷」と記されているのは「InDesign」でのDTPワークに従事しているからなのだろう。

2000年頃から、「支那事変」から「大東亜戦争」期の雑誌、広告チラシなどの収集と研究を始め、当時それらが浸透させようとしていた大日本帝国臣民にふさわしい意識、感性、道徳、思想の一端を「標本化」することを目的にこの本はまとめられている。
「大東亜戦争」の総動員体制が引き起こした「クダラナイこと・知っていても役に立たないこと・人類の運命にとってはどうでもいいことを厳選して収集」したと「はじめに」で述べる。

それらは今の眼から見れば実に「トンデモ」なものばかりに映り、彼も嗤い、読む私たちも嗤うのだが、重要なのは、我々はそれほど単純にそれらを「嗤う」位置に現在いるわけではないこと、やがて近い将来訪れるかもしれない「ディストピア(ユートピアの対極である暗黒郷)」を浮かび上がらせるためのリアリティの断片群として彼は提示していること

  

いわゆる婦人雑誌を扱ったところはとりわけ興味を引く。
敗色濃厚になるにつれメーターの針が振り切れんばかりにボルテージが上がる。
「台所戦争に勝利せよ!」「台所を要塞化せよ」ときて、女学生時代の幅の狭くなった古いブラウスに別布を足しただけなのだがなぜか「決戦型ブラウス」と名付けられたものが奨励される(「勝負服」などというのはここらあたりに淵源を持っているのか?)。
『主婦之友』の昭和19年5月号からの特集は「勝つための戦争生活」「敵前生活」「突撃生活」「勝利の体当たり生活」「勝利の頑張り生活」と意味不明なタイトルが続き、敗戦間際には「一億特攻の生活」「勝利の特攻生活」などともうほとんどヤケクソ状態になる。
本文記事の「火無しコンロの作り方」などという実用記事の上には「アメリカ人をぶち殺せ」「一人十殺米鬼を屠れ」「ぶっつけろ一億の肉弾!」などのスローガンが入る。
占領軍が来る前に新聞社が写真を処分したように、出版社も在庫はおそらく大慌てで処分した。

丸善が創業間もない1885(明治18〕年に造り始めたものを沿革とし、現在でも万年筆用インキの定番である丸善アテナインキの『学生の科学』(誠文堂新光社)への広告(そういえば小中学生時代『子供の科学』というこの後身にあたる雑誌を愛読した)。戦争勃発直後に連続して掲載。
あまりにあけすけな帝国主義便乗に呆れるが、これも「誰か」が創っているー当時の「図案家(グラフィックデザイナー・イラストレーター)」「文案家(コピーライター)」「写植オペレーターあるいは活版清刷制作者」「版下制作者(フィニッシャー)」などなど…。


私が教えている大学でデザインの力を身に付け巣立っていく若い世代が、こんなにあからさまには事態がわからないようになっている時代のなかで、本質的にはこれと変わりない戦争美化や国家主義、新植民地主義的プロパガンダ制作を、無自覚にあるいはやむをえずやることになる可能性を否定する自信は私にはまだない。

そうならないよう傾注し続けるのみ。
   

8 29, 2010 07.デザインの世界, 08.ことばとコミュニケーション・文字・タイポグラフィ, 14.読書三昧, 15.社会・政治・思想・歴史そして世界へ |

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