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2010年04月29日

"Loopy" 日本を席捲

Washington Post のコラムニスト、Al Kamenの "In The Loop" というコラムで書いた一部が引き起こしている騒ぎは、ことばとコミュニケーション、外国語と日本語の相互理解、またマスコミによる「洗脳」、ミスリーディングや、最近ではTwitterなどで(意図的であれ無自覚的であれ)あっという間に増幅される大衆的な感情醸成(容易に扇動や特定の対象への”バッシング”になる)等の問題に関心を持っているものとして見過ごせない。

彼は、4月14日付(ネット版)の "Among leaders at summit, Hu's first(サミットのリーダーたちのなかで胡錦涛が第一)"と題するコラムで、鳩山首相は「核サミット」での「"the biggest loser"(最大の敗者)」であり、"hapless(不運な)" 人で、何人かのオバマ政権当局者の意見によると、increasingly(ますます、いっそう)"loopy" だ、と書いた。

まず問題は "loopy" ということばの意味。

「Longman 現代英英辞典」には、「crazy or strange」、
「Cambridge Dictionary」では「strange, unusual or silly」、
「ランダムハウス英和大辞典第2版」には、「輪(loop)の多い」というもともとの意の他に俗語として、「常軌を逸した、変わった、頭がおかしい」、「(酔って)正体のない、ぼうっとしている、ふらふらの」、
「ジーニアス英和大辞典」にも俗語として、「狂気の、ばかな」、
と載っている。

日本のマスコミは、この意味の「馬鹿な、愚かな」とアメリカの新聞が言っていると煽り、鳩山自身もワシントン・ポスト紙がいうようにたしかに私は愚かかもしれませんが、などと言わなくてもいいことを言い、「常軌を逸した、変わった」あたりは当たらずとも遠からずなので、大多数は納得し、ネットで「ルーピー夫妻」などというTシャツやグッズを売り出すものも出てきた。

それ以前というレベルの問題は、「鳩山は、ますますloopyだ」と言ったのは、オバマ政権の当局者であり、このコラムニストはそれを紹介しただけという事実をそもそも鳩山や官房長官でさえ認識していないこと。
元記事を確認もせず、「米有力紙が”鳩山首相は”最大の敗北者”、"愚か”と報道」などという日本のマスメディアの報道を鵜呑みにしている「愚かしさ」。
「不快感」を表明するならオバマ政権にするべきなのだ。

Al Kamen は、4月28日付の「 'Loopy' takes Japan by storm ("Loopy"という言葉が日本を席捲)」で、"Loopy"が、語釈は疑わしいが日本の新語になりつつある騒ぎについて書き、その中で、過日、言語学者である山田正義・島根大学名誉教授からメールをもらったことに触れている。

山田教授は、日本のマスメディアは "loopy"にふたつの異なった訳をあてており、ひとつはstupidにあたる「愚かな」、もうひとつはcrazyにあたる「狂った」。アメリカのスラング辞典には「stupid(愚かな)、silly(馬鹿な)、eccentric(一風変わった、常軌を逸した)」とあるが、これでは自分にも学生たちにも助けにならない。あなたは正確にはどのような意味で使ったのか?と聞いてきた。

Al Kamenは山田教授への返信でいう。

”loopy"はまずもって "in the loop" の対極的意味
(※高味訳注:彼のコラム欄の名称ー「天声人語」にあたるようなー自体が "in the loop” )

At the outset, we must emphasize that "loopy" is the exact polar opposite of "in the loop," which means plugged in or very well informed about things, especially the internal decision-making at the top levels of organizations.

"in the loop" とは、組織の中枢にきちんと位置しており、十分に情報や内部的意思決定に携わっていること

だからその対極である "loopy" を「愚かな」とか「馬鹿な」とか訳すのは意味を掴んでいない。

After discussion with several experts -- actually, reporter colleagues who sit within a 30-foot radius -- the consensus is that the term essentially refers to someone oddly detached from reality.

近くにいた色々な記者たちと議論した結果同意にいたったのは、この言葉は、本質的には、oddly detached from reality(奇妙に現実から離れた)というような人に使うということ。

________________________________________

「奇妙に現実から離れた」と「普通の人」や「世間の常識」から見なされる人は、「一風変わっている」「常軌を逸した」から果ては「馬鹿な」「愚かな」「狂った」人とされるだろう。

ことばの「本質的な」原義から派生した具体的な使用意味だけが普通は辞書に載る。
だから辞書で色々ある語義のうちどれかということを第一にしてことばを分かったつもりになってはならない、ということに関わるかなり深いことをこの人は言っているのだ。

日本のマスコミは彼があわてて真意はこうだと弁明したかのように報じているが、自分の都合のいいように勝手に解釈して浅薄に報道しておいて、相手のその後の言い分を言い訳であるかのように報じるのはいつものやり方。

もっとも、鳩山首相に関して言えば、これらを通じたすべての語義が当てはまりそうに思えるので問題が不明瞭になるのだが…。

4 29, 2010 08.ことばとコミュニケーション・文字・タイポグラフィ, 09.ネットワーク・コミュニケーション, 15.社会・政治・思想・歴史そして世界へ |

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