観察と発見、疑問と仮説、そしてまた新しい発見へー『雄大昆虫記 ぼくのアシナガバチ研究所日記』(中川雄大・くもん出版)
『雄大昆虫記 ぼくのアシナガバチ研究所日記』(中川雄大・くもん出版)は、長野県白馬村に住む少年が、身近なアシナガバチを小学4年から6年まで観察や実験を重ねた日記や絵、写真をまとめたもの。
北アルプス・白馬岳の麓、白馬村は自然がいっぱいだ。
雄大少年も大の虫好き。
2年生のときには「キアゲハの観察記録」で賞を取っている。
4年生になったとき、新しく赴任してきた先生はそれを知り、「雄大くん、コンクールを目標にがんばりますか? いちばんのごほうびに、海外旅行に行かせてくれるコンクールもありますよ」と勧める。
「昆虫が教えてくれる不思議な世界。そして観察をするとコンクールが待っている! そのダブルの魅力はぼくの心を動かした」
そして家に巣をつくるアシナガバチの観察を始める。
小学4年生のときの「ぼくとバーラの物語」の章。
八重桜が満開の頃、巣を作った「ヤエラ」ちゃんの、幼虫がまだ入っている巣が強風で落ちてしまった。ヤエラはもう諦めて戻ってこない。
バラのそばに巣を作ったので「バーラ」と名付けた女王蜂の巣にこの落ちた巣を瞬間接着剤でくっつけてみる。
バーラは最初の3分くらいは怒っているよう。
「けれどバーラはすぐにヤエラの巣に移って、部屋の中の幼虫のようすを見てまわっていた。そして午後までには、落ちたときにつぶれた部屋の入り口の部分が、きれいになおしてあった」
「バーラは、自分の巣とヤエラの巣と、二つ分の子どもたちを育てなければいけないので、仕事のしすぎでイライラしている」
観察と発見、疑問と仮説、そしてまた新しい発見へ。
真夏日、働き蜂たちがみな草むらへ飛んでいくので何だろうと見ていると、蜂たちは草の上にたまった水玉を飲んでいる。
けれど飲んでいるわけではなかった。
巣に戻ると水玉を吐き出し、巣のなかがびしょ濡れになるほど皆で何十回となく繰り返し、羽をふるわせて風を送る。
炎天下の巣を冷やしているのだ。
コアシナガバチは何を好むのだろうと、蜂蜜、ストロベリー、メロンなどを巣の前に並べてみる。
蜂蜜だろうと予想していたら、なんと醤油が一番人気なのだった。
三年間にもわたる毎日の観察と実験と記録は、対象に対する愛情や情熱、熱中(「そしてぼくはハチに熱中した」)がなければできることではない。
同時に、自然を観察することは自然の摂理を学ぶことでもある。
バーラが死ぬ日がくる。
「8月19日 悲しい出来事
春から一生けんめい巣作りをして、二つの巣の子どもを育てたバーラ女王が今朝、巣から下に落ちてしまった。かた方のはねは半分ちぎれて、もうかた方のはねはちぢれている。そのうえ、じまんの長い足がもげてしまって、歩くことも飛ぶこともできなくなってしまった。…」
「8月20日 忘れないよ、バーラ
午後、バーラが死んだ。バーラは巣から落ちてから、二日間ぼくのために生きてくれた。…大きな二つの丸い複眼に見つめられると、胸の中がぎゅっとなる。ときどきピクンピクンと触覚を動かして、ぼくに話しかけてくれたみたいだ。
バーラの巣には新しい女王が生まれたけれど、ぼくは今までずっとバーラがしてきたことを知っている。ヤエラの子どもたちを育ててくれたバーラ、本当にありがとう」
「ぼくはバーラと一緒にヤエラの巣の子どもたちを育てた気持ちになっていた。ひどいケガを負い、苦しそうなバーラを見たときには、胸がつまるような思いで悲しかった。そして秋の終わりごろ、スズメバチに巣を襲われて散り散りになっていくハチたちの生活から、自然のきびしさを学んだ」
卒業制作や課題に悩んでいる私のところの学生たちに読ませたい。
7 7, 2008 11.教育と学びのデザイン, 14.読書三昧, 18.花・木・野菜・生きものたち | 固定リンク
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