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2004年10月21日

「年齢と読書」(荒川洋治)

041021arakawa

私の好きな詩人・批評家の荒川洋治のエッセイに「年齢と読書」というのがある(『言葉のラジオ』竹村出版/1996所収)。

十代から九十代まで、本、読書に対する姿勢は「おおよそこうではないか」、あるいはこうありたい、というようなメモだ。彼は私と同じ団塊の世代(1949年生まれ)であることもあって、わずか2ページちょっとのこの文章をときどき読み返して、にやりとしたり、感慨にふけったり、焦燥にかられたりする。

〔10代〕
「中学生なら教科書をある程度。図書館の空気に触れる。
高校生は、すいこむ読書。10代後半に読んだ本は体に入る。それ以後は頭にだけ入る」
(そう、「すいこむ読書」「体に入る」という表現がぴったりだなあ。世界が拡がっていく感覚、あるいはことばが作り出す美しさに打ち震えるように覚える感動。今でも高校生の頃繰り返し読んだE.H.カー『歴史とはなにか』やヘミングウェイの『武器よさらば』の原文の一節とか、斎藤茂吉『万葉秀歌』のなかの防人の歌などがふっと口をついて出てくるというのは「体に入って」いるとしか言いようがない)
〔20代前半〕
「みだれる読書。読書の楽しさがわかる時期…とにかくこの時期は乱読。読んだ本が、生涯の読書の”幅”を決めるのではないか」
(学生諸君になんとかこのことを伝え実践してほしいと願う)
〔20代後半〕
「ちからの読書。本から離れる時期である。会社づとめがはじまるので新聞、週刊誌がやっと。周囲に同化、読書の習慣もなくなる…ちからで読書を取り戻すしかない」
(卒業生諸君になんとかこのことを伝え実践してほしいと願う)
〔30代〕
「ひろげる読書。精神的にも経済的にも落ち着くが、いったい自分とは何か、一人風呂のなかで考える時節でもある。これまで関心のなかった分野も含めて、もう一度おさらいし読書のスタイルを見つめ直す」
(この時期が人生と読書ということについては一番分かれ目かもしれない。仕事は忙しく責任もある。子供もできるだろう。単に仕事の上でのノウハウとか人生設計上のステップアップのため、というだけではない深みと拡がりを持てるかどうか)
〔40代〕
「つたえる読書。自分の最終着地点を確認し、必要ではない読書を切り捨てる時期か。いっぱいいろんな本を読んでも、どうにもならない。本を選び、的をしぼる。また年下の人に読書のよろこびを伝えるのも40代のおおきな仕事」
(いつも焦燥にかられるのはこの部分を読み返すときだ。大学で教え始めたので「年下の人に読書のよろこびを伝える」のは少しはできたかもしれないが、40代でも「自分の最終着地点」は「確認」できず「的をしぼる」こともできなかった)
〔50代〕
「ふかめる読書。さらに領域をしぼり、専門書に分け入る。そのことでこの先ひと通り学び直さなくてはならない世界が見えてくる。」
(今私は該当する50代なのだが、あいかわらず「領域をしぼる」ことはできない。「学び直さなくてはならない世界」はだいたい見えているのが救いか。それもどう変わるかわからないが)
〔60代〕
「いこいの読書。人生の色合いがわかり、ちがう世界にいる人たちの言葉も深くとらえられるようになる。ゆとりをもって言葉を味わえる年代。」
(こういう平穏は訪れないような予感がする。ただ他者への理解は深まるだろうが)
〔70代〕
「ならべる読書。書物から得たもの、暮らしから得たものなどを並べ余生を構想する。」
(これも、こういう平穏は訪れないような予感がする。生きていればだが)
〔80代〕
「とける読書。好きな本だけを身辺に置き、何度も繰り返して読み、そのなかにこれまでに見たこと知ったことのすべてを溶かしていく。」
(溶けて地下水となり、次の世代をうるおせればいい。生きていればだが)
〔90代〕
「さわる読書。だんだん視力も弱り、一冊の本を手にとるだけでも努力がいる。”ああこれは本だ”。だがその笑顔は深い。読書の理想郷である。」
(なにも言えない)

もちろん読書という習慣はあくまで個人的なものだし、このタイムラインだって「あてにはならない」(半分はユーモアだ)。
しかし「新鮮な読書を維持するために、精神をフレッシュにして、なまけがちな自分自身と日々たたかう」ために先に述べたように、この短いエッセイをときどき読み返す。

「本を読んでいる人の表情は美しい。たたかっているからだ」

10 21, 2004 14.読書三昧 |

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» 読書の愉しみ 隅田清次郎残日録
右にリンクした高味 壽雄さんの「Radical Imagination」に読書人

2004年10月22日 08:06

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