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2004年10月07日

東京クヮルテットー東京公演第2夜

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※写真はクリックすると拡大表示されます。東京クヮルテットのメンバー、左から池田菊衛(第2ヴァイオリン)クライヴ・グリーンスミス(チェロ)マーティン・ビーヴァー(第1ヴァイオリン)磯村和英(ヴィオラ)

昼間、池田くんとホテルでウェブサイトの打ち合わせ。いよいよ最後のつめ。
今晩は中学・高校の同級同期生や中学での恩師など多数集まる。

プログラムはまずハイドン・弦楽四重奏曲第74番ト短調Op.74-3「騎手」(1793年)。イタリア、マンハイム、ベルリン楽派などによって発達していた「シンフォニー(交響曲)」を古典派交響曲としての形式を完成させたのはハイドン(1732-1809)だが、彼はそれまで素人が家庭で楽しむ娯楽でしかなかった弦楽の合奏をプロの作曲家・演奏家が取り組むべき「弦楽四重奏」という形式を確立した人でもあった。第74番はなかでも有名な曲。18世紀末の典雅な響きが1680〜1736年ストラディヴァリウス制作の「パガニーニ・セット」を操る東京クヮルテットの手でよみがえる。
ハイドンは有力貴族の庇護の下に自分の楽団を持ち、作曲の成果を自由に試すことができ、貧しい車輪工の家に生まれたにもかかわらず、功成り名を遂げて幸福な晩年を送った。

2曲目はモーツァルト・弦楽四重奏曲第22番変ロ長調「プロシャ王第2番」。
モーツァルト(1756-1791)はハイドンより24年後に生まれ、18年も先に死んだ。ハイドンからさまざまな影響を受け、実は彼にも影響を与えた。ハイドンを「正」としモーツァルトを「反」として「合」としてのベートーヴェンが産まれえたといえるかもしれない。
この曲が書かれた1790年は死の前年だ。友人に手紙を書いている。「現在、まったく無一文で…そのために『四重奏曲』も脱稿できないでいます」。
昨夜の第3番の軽みに比べると、同じ風なのだが、どこか無理に明るく振る舞っている感がして痛々しい印象がする。
翌91年の死。「集まったわずか数人の知人と弟子は、おりからの雪まじりの悪天候のために墓地に見送ることも出来ず、屍体はただ墓堀人の一人によって、セント・マルクス墓地の中の共同貧民墓地に葬られ、数十日後にはその正確な場所さえ不明になった」(山田風太郎『人間臨終絵巻』ー35歳で死んだ人々)。

最後にスメタナ・弦楽四重奏曲第1番ホ短調。「わが生涯より」と副題が付けられている。
スメタナ(1824-1884)は、当時オーストリア帝国の属領であったボヘミアを中心とした国民国家創設・文化自立を音楽面で担った(チェコスロバキアが実際に独立するのは第二次世界大戦後の1948年)。当時はすべてドイツ語が強制され、スメタナ自身チェコ語を学んだのは37歳からだ。幼児の頃すぐぞばで火薬の入った箱が爆発し、衝撃で2日間耳が聞こえなくなった。以後徐々に耳の病は進行し、この曲が書かれた1876年(52歳)にはすでに聴覚は失われている。
第1楽章「青年の頃の芸術への愛、あり余るほどのロマンティックな感情、漠然とした憧憬、やがて来る不幸の予兆」。下降5度の第1主題ヴィオラの磯村さんの演奏は、絶望の予兆の表現としてぞくっとした。終わりころ突然出てくる第1ヴァイオリンの甲高い不気味な音は、失聴に至る途中で経験した幻聴を表しているといわれる。
第2楽章「舞曲の小品を作曲して若い人々に音楽をあたえていた」時代を振り返る章も、第3楽章「後に妻となった一人の忠実な少女への初恋の喜び」も、充実や喜びの表現に悲痛がはりついているかのようだ。
第4楽章「民族音楽の特色を把握したこと、その成功の喜び」がつかの間表れるが、フィナーレは「不吉な破局による喜びの中断、失聴のはじまり、回復への希望の光も消え、生涯のはじめを思い起こしても苦悩しか残らない」と付記される。
救いの無い、これで終わりだとでもいうかのようなピッツィカートで演奏は終わる。
誰でも知っている「モルダウ」を含む交響詩「我が祖国」はこの間まだ書き継がれた。
1984年、記憶喪失が始まり、今でいうなら躁病の錯乱状態で脳病院に入れられ、正気には戻らず永眠した。

音楽は作曲されて世に送り出されたときから自立している。
しかし私はそれを産み出した人と人生への関心を持ち続けたい。それは絵画でもデザインでも同じことだ。
音楽の場合は作曲家とは別にそれを再現し、現代に生きる我々に意味や意義や感動を与えてくれる演奏者がいないと成り立たないので当然演奏者についてもなのだ。

10 7, 2004 13.音楽の楽しみ |

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